台湾のEC市場は二桁成長市場
台湾の経済主管部門の発表によれば、EC市場規模は2012年で前年比17%増の6,600億台灣ドル(約1兆8,480億円、1台灣ドル=2.8円換算、ただ、昨今の円安傾向を加味する必要もあり) とあります。これは日本の市場規模の約1/5で1人口当たりの消費金額でみると日本とあまり変わらない数字です。2011年のデータですが、台湾でECサイトへ来訪したユーザー数は年間で約1,000万人、浸透率はインターネットユーザーの63%あり、まだ伸びしろはありそうです。
同経済主管部門からは、2015年には市場規模1兆台灣ドル (約2兆8,000億円、1台灣元=2.8円換算) に達する見通しが示されており、今後は内需とともに中国大陸のEC市場への参入が市場発展の鍵となるでしょう。
台湾における代表的なEC事業者とは
台湾EC市場で最も重要なプレイヤーはYahoo!に代表されるECモールです。Yahoo!には「購物中心」と「超級商城」という大きく2つのショッピングサービスがありますが、一説には、それらとオークションサイトで台湾EC市場の半分以上を占めるとも言われています。その他にも、3C (消費者向けデジタルコミュニケーション機器の略) 商品に強い「PChome」、女性ターゲットの「露天」、「PayEasy」、日本推しの「7net」、「楽天台灣」などがあります。
日本最大のECモールを運営する楽天が一番最初に海外進出した先は実は台湾です。台湾最大手の流通企業である統一グループと提携して進出し、親日的・好日的である台湾の消費者に対して、日本最大のショッピングサイトであることを強調して展開しています。現在、楽天はファッション分野、電子書籍分野に力を入れていますが、残念ながらまだまだ大きな影響力を持つところまで至っていません。
独自ドメインのEC事業者としては台灣版Amazonと言われる「博客来」、台灣最大の書店チェーン誠品のオンライン版の「誠品網路書店」、アパレルの「Lativ」(ファッションEC事業者として台灣最大)などが有名です。
Lativはよく台灣版ユニクロと言われており、シンプルデザイン・低価格を目指しています。オンライン専業の台湾アパレル・ファッションECとして最大規模のサイトで、2011年売上は40億台灣ドル (約112億円、1台灣ドル=2.8円にて円換算) 、1,400万着を販売しました。単純計算すると、売上単価は286台灣ドル (約800円)。売上規模で比較すると、ゾゾタウン (ZOZOTOWN) の約1/3、ユナイテッドアローズのEコマース規模とほぼ同等になります。Lavivは広告宣伝に非常に力を入れており、地下鉄の駅通路全面に交通広告を出すなど、オンラインに限らずオフラインでもその存在感をアピールしています。
Lativ ホームページ http://www.lativ.com.tw/
台湾ECで求められる決済方法と物流事情とは
台湾に限らずEコマースにおける決済手段の多様化は対応すべき重要な考え方です。台湾ではクレジットカードは日本ほどは浸透してないものの、アジア諸国の中では所有率は高い方です。しかし、若い世代では当然カードの所有率は落ちます。そのため、代替としてのEC黎明期から引き続き利用され続けているATM支払い・銀行振込も決済方法として用意する必要があります。
2011年末の財団法人資訊工業策進会(台灣経済部の外郭団体)の調査においても、台湾ECで利用する決済方法として、クレジットカード (74.6%) がもっとも多く、次いでATM支払い・銀行振込 (52.8%)、ネットバンキング振込 (46.4%)、代引き (37.5%)、コンビニエンスストア決済 (32.8%) と続いています。ただし、年代・性別によっても決済方法の好みは変わると思われるので、上記のように広い属性で取得したアンケート回答はあくまで平均として捉えた方が良いでしょう。
株式会社コミューンが2012年9月に実施した、日本のファッションに興味を持つ20代の台湾女性を対象とした調査では、決済手段として、コンビニエンスストア決済が圧倒的に支持されていました。実は、台湾では9,000店舗以上のコンビニが存在し、一人口あたりの店舗密度が世界一と言われるほどです。商品の受取りもコンビニで行えるため、非常に使い勝手の良いスポットになっています。
この質問では、「最も多く利用する」決済方法を単一回答で聞いているため、実際の利用者としては上記よりも多いということになります。特に若い世代をターゲットとしたファッションECを始める場合には、コンビニエンスストア決済の導入は必須と言えそうです。
次に物流に目を向けてみましょう。実は現在の台湾の物流機能は極めて発達しています。その理由としては、ここ10年ほど日本の宅急便事業者がノウハウや技術を提供してきたことが挙げられます。ヤマト運輸、佐川急便、日本通運、それぞれが提携している現地配送事業者と台湾の郵便局である中華郵政の間でいい意味での競争があり、日本で受けられる宅配サービスの多くが台湾でも提供されています。
もともと狭い国土で人口が台北・高雄に集中しているということもある。島内であれば翌日配達が可能だったり、アジア圏ではあまり無い冷蔵・冷凍のクール便も提供されているなど物流のレベルが高いです。また前述のコンビニエンスストア決済のニーズが高まる中、荷物受け取り場所としてのコンビニも注目されており、今後、配送事業者とコンビニとの連携によって、より効率的な流通体制が組まれていくでしょう。
台湾EC市場の特徴 (1) – 消費者の購買行動と価格の重要性
このようなEコマースの環境の中で、台湾の消費者はどのような購買行動をとっているのでしょうか。日本のファッションに興味を持つ20代の台湾女性と偏ったサンプルではありますが、この調査からは、彼女たちはファッション関連商品を欲しいと思った時、外出するよりはまずファッション雑誌かインターネットを見る傾向があるとわかりました。
インターネットに絞ると、Yahoo!のオークションかショッピング (購物中心と超級商城) への行くか、もしくは検索エンジンを利用することが多いという結果になりました。対象が若い世代のため、夜市に行くことも想像していたのですが、その率は低いものでした。夜市で買える洋服の価格・品質であれば、インターネットで探す方がより品揃えが多く手間も無いため、若い世代ではEコマースへの大きなシフトが起きていると考えられます。これがEC市場規模を押し上げている一つの理由でもあります。
ただ、アパレルに関して言うと、台湾では中・高品質で安い商品がほとんどありません。消費者としては良いものは高いし、それなりのものは安いという感覚です。現在は品質が悪くても安いものがインターネットで売れているという状況になっているのが事実で、一概に台湾のEC市場規模が伸びていることについて、手放しでは喜べない状況です。
これは仮説ですが、上記Yahoo!のオークションやショッピングへすぐ行く層は、まず価格重視の消費者で、これが現在台湾ファッションECの市場を支えるマス層でしょう。特にオークションは品揃えよりも安さという分かりやすい選択ですが、若い世代からは絶大な支持があります。
消費者としては、品質は悪くても安いからしょうが無いとある程度割りきっていると考えられます。夜市レベルの品質でも1シーズンは着れるでしょうし、インターネットという品揃えも豊富で簡単に買える購入先ができた今、彼女らの購買行動は大きな流れとなっています。
上記とは別に、価格から入らないユーザー層は、検索エンジンを最初に使いECモールに頼らない購買行動をしているのかもしれません。今後この層が増えてくれば、ECモール内での値引き競争を避けることができるかもしれませんが、ECモールほどの信用度の無い独自ドメインのEC事業者では、まだ集客などのノウハウを持つところは少なく、価格設定が最重要課題となる現状は容易には変わらないでしょう。
台湾EC市場の特徴 (2) – Yahoo!一人勝ちのEC市場
もう一つの台湾EC市場の特徴として挙げられるのが、台湾インターネット業界の巨人Yahoo!の存在です。前述の通り、Yahoo!には大きく2つのショッピングサービスがあり、1つはアマゾン型(Yahoo!自身が商品を取りまとめて直接販売する)の「Yahoo!奇摩 購物中心」、もう1つは楽天型(各EC事業者がYahoo!に出店して商品を販売する)の「Yahoo!奇摩 超級商城」の2つです。
前者はユーザーからの信用度も高く集客力も強いのですが、売上手数料として20%が最低限徴収されます (物流や広告までYahoo!に依存するとさらに%は上がります)。後者は集客をゼロから始める必要がありますが、売上手数料は5% (販売する商品により多少変化します) の徴収と比較的低いです。
ここ数年、日本国内の事業者が台湾でEコマースを始めるケースが増えていますが、先ずは日系商品の取り扱いが多い統一企業グループの楽天や7netから始めるケースが多いです。しかし、売上規模でなかなか満足できる結果になっていないと聞きます。理由の一つとして、そもそも大きなトラフィックの流れをおさえていないということが言えます。人口が2,300万人と日本の市場と比較すると見劣りする台湾ではこれは致命的な問題です。
ユニーク訪問者数/日 比較 – Yahoo!奇摩 購物中心 vs 7net雲端超商 vs 樂天市場購物網
上グラフは、2011~2012年にかけての「Yahoo!奇摩 購物中心」と「楽天台灣」、「7net台灣」のデイリーユニーク訪問者数の比較ですが、それぞれのトラフィックの差は歴然としています。Yahoo!には、上記購物中心の他にほぼ同規模の超級商城というショッピングサービスもありますので、その2つの訪問者数を合わせるとその差はさらに広がることになります。
日本のファッションに興味を持つ20代の台湾女性に対する調査でも、ファッション関連商品を欲しいと思ってECモールに行く場合、どのモールに行くかという質問に対して、以下の通り、圧倒的にYahoo!のサービスが支持されています。
ECモールに関する質問・回答結果
台湾EC市場の特徴 (3) – ECモールへの依存体質が抜けず、自社ECサイト運営のノウハウを持つ事業者が少ない
日本や米国ではBtoC事業の業界大手であればECに参入しているのが当たり前ですが、台湾では実店舗を持つ有名企業でもWebサイトは持っていても、商品や店舗の説明が主なコンテンツでEコマースにまで至っていないケースが数多くあります。国土が狭く、台北・台中・高雄に多くの店舗があれば、わざわざEコマースを行う必要が無いと企業側では考えているのかもしれません。
台湾市場の成長などから見て確実にユーザーの購買行動はインターネットにシフトしているとはいえ、自社ECサイトが少ないというこの状況は大きく変わっていないのです。
それほど多くの小売大企業がEコマースに積極的ではないことと、Eコマースを始めるにしてもYahoo!へ出店する、という状況から、自社ECサイト運営のノウハウを多くの大手企業がまだ持っていないという現状があります。
例えば、台湾で有名なビジネス雑誌「數位時代 Business Next」が主催する2012年 PowerSeller Top10にノミネートされているファッションEC事業者のリストを見てみると、そのほとんどが独自ドメインの自社ECを持っていないECモール (主にYahoo!) 出店者だったりします。
確かに、Yahoo!のECモール内やポータル内での広告などにより集客には圧倒的な力を発揮し、消費者も買い物は先ずはECモールへという意識があるため、モール出店自体は全く悪いことではない。ただ、モールに頼りきりになってしまうと、集客やリピート化などのノウハウはもちろん日々のマーケティングデータまで貰えないという状況で、ある意味飼い殺しになってしまいます。
これは、逆に考えると事業機会とも言えるのですが、モールと自社サイト両方でEコマースを始めて信頼を築きながら意図的に自社への誘導を行い売上比率を転換していく、という日本ではなんでもないことが台湾ではノウハウになります。伸び盛りの中国やその他の包括的なアジア市場がその先にあることを前提に考えると規模感も悪くありません。
Eコマース市場が発展しきった日本や米国と違い、台湾ではまだ、EC=ECモール、そして、ECモール=Yahoo!という図式があります。極端に言うと、Yahoo!に頼らないとEコマースが成立しないため、立ち上げは難しくないものの、利益を伸ばす段階で必ず行き詰まるケールが多いのです。また、Yahoo!は基本的にマーケティングデータをモールに参加するEC事業者側に渡さないため、事業者側のマーケティングノウハウが貯まらないという弊害も現場にはあります。
アマゾンのような強力な外資が参入して市場に機会と脅威を与えることも無く、Yahoo!を中心にゆっくりと回っているのが台湾のEC市場であると言えます。
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出典 :
人民網日本語版
WIS台灣社内資料
株式会社スタートトゥデイ決算資料
株式会社ユナイテッドアローズ決算資料
コミューン 内部調査資料