SPA・ファストファッションの次に来る流通モデルとは

ファストファッションとは、品質重視からデザイン鮮度へと視点を移し、かつ低価格を実現しています。トレンドファッションディスカウンターとファストファッションの上質版の2つの流れがファストファッションに続くモデルとして …


ブログ「ファッション流通ブログde業界関心事」で有名なコンサルタント齊藤氏の初出版本「人気店はバーゲンセールに頼らない 勝ち組ファッション企業の新常識」が4月に発売されました。

そこで今回は、SPAからファストファッション、そしてその次のファッションビジネスの向かう先について、本からの引用を中心にまとめました。

SPA・ファストファッションの次に来る流通モデルとは 1

 

SPAの定義

まず、SPAとは、Speciality store retailer of Private label Apparel の略語で、もともとGAP (ギャップ) のファウンダーである故ドナルド・フィッシャー氏 (Mr. Donald Fisher) が自社の業態を指して造った言葉でした。

しかし、現在、英語圏では全く使われておらず、日本では「繊研新聞」が広めたことで、ファッション業界で一般化しています。

よく「製造小売業」と訳されることが多いのですが、本の中ではもっとわかりやすく、「ファッション小売業がリーダーシップを取って、自らの商品企画の主導権を持ち、販売から製造までをコントロールするビジネスモデル」と説明されています。

 

SPAモデルの台頭

従来のファッションビジネスは、アパレルメーカーが主導権を持ち、ブランドのデザイナーがシーズンごとに企画提案する商品を、百貨店や専門店などの小売業が仕入れて顧客に販売するスタイルが主流でした。

しかし、1990年以降、ファッションマーケットが買い手市場となった今、勝ち組と呼ばれる企業のほとんどは、SPAのビジネスモデルを採用しています。

SPA成功の要因としては、メーカー主導のサプライチェーンから店頭起点のディマンドチェーンへとシフトしたこと、従来3〜6ヶ月サイクルの商品開発を週単位で対応できる体制をつくったこと、完全買取りの自社商品とすることで価格決定権を持ったこと、などが挙げられます。

小売業出身のSPAとしては、GAP、H&M、ユニクロ、ローリーズファーム、セシルマクビーなど、アパレルメーカー出身のSPAは、ワールドの各ブランドやコムサイズムなど、工場出身のSPAは、ZARA (ザラ) が代表として挙げられます。

 

第2世代SPAモデル – ファストファッション

スウェーデンのファッション企業 H&M が2000年にニューヨーク・マンハッタン5番街へ出店したときあたりから、ファストファッション (Fast Fashion) という言葉が英語メディアで頻出するようになりました。

ベーシックカジュアル衣料を扱うGAPやユニクロ、ジョルダーノなどは第1世代SPAといわれ、特にファッション性にこだわるH&MやZARAなどは第2世代のファストファッションSPAと分類されます。

ファストファッションとは、その名の通り、上記SPAの成功要因のうち、特に店頭情報をスピード感を持って商品開発に活かす考えが中心にあります。品質重視からデザインの鮮度へと視点を移し、かつ低価格を実現しています。

ZARAは店頭でさしあたり必要な数週間分の商品しかつくらず、在庫をあまり持たずに店頭の鮮度を維持しています。店頭での売上データ、顧客の反応に基づき、売れるものは作り足し、修正が必要なものは店頭の声を収集して改良版を作りますが、この作り足しが生産スタートから世界の店頭に届くまで約15日という驚くべきスピードなのです。

 

ファストファッションに続くモデルとは

「トレンドファッションディスカウンター」と「ファストファッションの上質版」の2つの流れがファストファッションに続くモデルとして、本の中で紹介されています。

トレンドファッションディスカウンターとは、文字通り、ファストファションのさらなる廉価版です。例として挙げられているイギリスのPRIMARK (プライマーク)は、通常のファストファッションの中心価格が19.99ポンド (約3,000円) のところ、10ポンド (約1,500円) がボリューム価格ゾーンとなっています。これは、おそらくH&MやForever21、ZARAのカジュアルラインのBershka の中でも低価格帯の商品の価格となると思います。

H&MやZARAが起こしたファストファッションというファッション流通の革新は、58〜60%と高粗利率のビジネスモデルを実現しました。このディスカウンターは、ファッション鮮度はそのままに、品質を落としボリューム陳列のローコストオペレーションを行うことで粗利率を30%台まで下げつつも規模でカバーするモデルです。

 

次に、ファストファッションの上質版の流れについては、既に、H&M の COS (コス)、ZARA の UTERQUE (ウテルケ)  という新業態が存在しています。これらは、高級ブランドやセレクトショップ並の店舗内装を施した店舗で、通常のファストファッションチェーンと比較して高品質な素材を使っています。

H&Mは全世界的に低価格帯ですが、ZARAは本国から遠いアジアでは比較的高いので、UTERQUE との住み分けをどうするのかが注目されます。既にアジアでは香港に進出しているので、今度価格の比較をしたいと思います。

ファッションの鮮度は高めたままに、価格と品質の幅を別ブランドとして広げていくグローバルファッション小売りチェーンは、調べれば調べるほど死角が無いように思います。最近のユニクロを見ていると、カジュアルベーシックの品質はそのままに、ファストファッションの分野にも進出しているように見えますが、H&MやZARA とどのように世界で戦っていくのかも注目したいところです。

 

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出典 :  人気店はバーゲンセールに頼らない 勝ち組ファッション企業の新常識 – 齊藤孝浩著