Eコマースのモバイルシフトは既に起きている
オンラインでモノを買う行為、一般的にいうネットショッピングは、長らくパソコン (以下PC) で行われ、Eコマース事業者はこれまではパソコンに最適化したユーザー体験を考えてサービス設計をしていました。
しかし、comScoreによる米国ユーザーのデータやNielsenによる日本ユーザーのデータ、Alibabaの中国モバイルコマースに関するデータにもある通り、既にあらゆる面でスマートフォンユーザーの存在感は高まっています。
米国では2014年1月の総インターネット接触時間の46.6%はモバイルアプリの利用で、45.1%のデスクトップからの利用を初めて越えました (comScore)。
日本では楽天市場は2013年12月時点で既にスマートフォンからの利用者がPCを上回っていますが、2014年2月にはアマゾン/AmazonやYouTube、ニコニコ動画もスマートフォンからの利用者数がPCを上回りました (Nielsen)。
中国では携帯電話契約者が10億人に達し、既にモバイルからインターネットにアクセスするユーザー数がPCからアクセスするユーザー数を超えています。中国のモバイルコマース市場規模は今年2014年には日本や米国を超え世界一になるでしょう (Alibaba/阿里巴巴)。
このように米国や日本、中国では既にモバイル/スマートフォンシフトの流れは顕在化しており、EC利用に関してもかなりの影響力を持つと考えられます。
上記に関するグラフは「世界的なモバイルシフトを裏付けるデータ」にまとめられています。
それでは東南アジアはどうか?
米国、日本、中国のケースは既にPCでのEC市場がベースにありましたが、東南アジアはどうでしょうか。
まず、2012年1年間の各国のインターネット利用率をみてみると、シンガポール、マレーシア、ブルネイ以外は50%をきっており、ベトナム、フィリピン、タイ、インドネシアは15 〜 39% となっています。今後の発展を考えると、まだEC市場の伸びにつながりそうな数値ではあります。
しかし、自宅からのインターネットアクセスに絞ってみると、同じくシンガポール、マレーシア、ブルネイ以外は、すべて20%以下となってしまします。職場からネットショッピングをするケースもよくあるとは思いますが、自宅でいろいろ考えてゆっくりというわけにはいかないようです。
次に、固定ブロードバンド回線の利用世帯率をみると、シンガポール以外はほぼ皆無といっていいでしょう。ECにはブロードバンドが必須ではないものの、インターネット接続環境としてはまだまだ遅れていると言わざるを得ません。
「東南アジアのEC市場規模はどこまで拡大するのか」でも参考にしている、主要国別のEC利用者数と購買単価を算出しているeMarketerのレポートをみると、東南アジアのEC市場規模はそれほど増加するとは考えられていません。
おそらくレポート自体がPCベースでの数値の積み重ねのため、上記の通りインターネット普及率が低い状況であれば、どうしてもこの地域のEC利用者数が大きく増加していくことはありません。
それではスマートフォン普及率はどうなっているのでしょうか。以下のグラフは2013年の数値ですが、シンガポールが飛び抜けているものの、フィリピン、マレーシア、タイでは3割を超えています。
これらはほぼ個人用のスマートフォンと思われるので、PCを持っていないもしくは家でインターネットに繋げられない多くの人にとっては、スマートフォンがパーソナルなコンピューターになっているのが現実なのではないでしょうか。
東南アジアでは、インターネットやブロードバンドの普及を待つ前に、中国のようにスマートフォンが先に普及していくと考えられます。
スマートフォン最適化がEC市場規模を爆発的に拡大させる
現状、東南アジアは、まだ日本の楽天やアマゾンでスマートフォン利用者がPCを超えスマートフォン経由の購買が大きく伸びているような環境にはありません。原因としては、通信・決済・物流のインフラが整っていないことが挙げられます。
ただ、これらのインフラが整っているシンガポールでは、いくつかスマートフォン/モバイルコマースのサービスが芽吹いています。「シンガポール発の位置情報ベースのフリマアプリ「Duriana」とは」にあるDurianaやシンガポールのiTunesアプリストアのLifestyleカテゴリ (Top Free Apps) で上位にいるCarousellです。
これら2つはスマートフォンアプリのみでサービスを提供しているCtoCのフリマアプリです。日本でもLine Mallやメルカリ、フリルなど月間流通額が急成長している分野です。
CtoCマーケットプレイス自体は、日本のヤフーオークション然り、米国のEbayやcraigslist、中国のタオバオやインドネシアのTokopediaなど、BtoCのマーケットプレイス (モール) や独自ドメインECよりも先に立ち上がっているクラシックなモデルです。
ここで考えるべきことは、CtoCが新しいのではなく、スマートフォンでモノを買う行為にストレスが無くなり、わざわざPCを使ってモノを買う必要が無くなったということです。もちろん、CtoC取引の信用を運営者が決済の間に入ることなどで裏付けしていることもありますが、ここまでスマートフォンに最適化したユーザー体験を考えたCtoCマーケットプレイスがこれまで無かったともいえると思います。
通常、接触時間が長くよりパーソナルなデバイスはPCよりもスマートフォンでしょうから、そこでスムーズにコトが進めばPCに切り替える必要はありません。日本でもBtoCの楽天やアマゾンはスマートフォンに最適化したユーザー体験を設計した結果利用者数が増えており、Line Mallやメルカリなどは正にそのユーザー体験に焦点を絞ったサービスです。
東南アジアのスマートフォンユーザーによるEコマース利用は上記の通り、通信・決済・物流のインフラの発展に寄るところもありますが、スマートフォンに最適化したユーザー体験を考えたサービスが増えることでEC市場規模が爆発的に拡大するのではないかと考えます。
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出典 :
Our Mobile Planet
Internet Penetration in Southeast Asia: Five-Year Growth Trends, 2008-2012 –
TigerMine Research