ラグジュアリーファッション誌ELLEによるFacebookコマース事例

ニューヨークのハースト社が発行するファッション誌 ELLE Magazine はFacebookページに「ELLE SPRING 2012 TREND REPORT」と題したアプリを用意しFacebookコマース …

ラグジュアリーファッション誌ELLEによるFacebookコマースFコマース事例1

 

ニューヨークのハースト社 (Hearst Corporation) が発行するファッション誌 ELLE Magazine は、Facebookページに「ELLE SPRING 2012 TREND REPORT」と題したアプリを用意しFacebookコマース (Fコマース) を実施しています。

 

ELLE はメディアであるため基本的にはラグジュアリーブランドの広告費で成り立っています。サイト上で直接商品を売るということはせず、ELLE Shops というセクションでエディターが商品を紹介しつつ他社のEコマース (EC) サイトへリンクさせています。いくつかのリンクは ShopStyle のトラッキングシステムを活用しアフィリエイト広告収益に繋げています。ちなみに日本の ELLE Online は、ハースト社買収前の会社の株主である住友商事のもと直接商品を販売するEコマース機能を独自に実装し現在に至っています。

 

さて、本国の ELLE ですが、上記 ELLE Shops の左上スペースには ELLE FB Boutique (Facebookブティック) と記載した大きなリンク画像があり、Facebookアプリへの集客を促進しています。このアプリの制作は 8thBridge が行っており、アフィリエイト広告のトラッキングの仕組みも同社が提供しています。アプリ内では決済の仕組みは持たずに実際の購買は提携のECサイトへリンクさせる方法ですが、Facebookを起点として商品販売を促進しているためFコマースであると言えるでしょう。

 

このELLE によるFコマースの取り組みの特徴を以下の3点に纏めました。

 

1. エディターにより選別された商品という見せ方

有名なファッション誌のエディターといえば、その分野では神様のような存在です。

Social Commerce Today の記事では、このアプリを

editorially curated and shoppable trend catalogues
(エディター目線で選別された買い物もできるトレンドカタログ)

と表現していますが、一般消費者によるキュレーションではなく、ファッションに関しては最先端にいる有名ファッション誌のエディターが選別しているという強みは持続的な競争優位性になります。

とはいえ、まだこのアプリには商品の背景やストーリーなどの説明が無かったり、商品の随時追加・更新は無く、6週間毎の全入れ替えだったりと改善の余地はありそうです。

 

 

2. Open Graph アプリによるFacebookとの連携強化 

Facebookアプリ内のアクションは Open Graph Protocol (以下OGP) の仕様によって友達と情報を共有することができます。例えばアプリ内の商品ページにあるタイトルの下に、Love (好き)、Want (欲しい)、Own (持っている) というアクションを表すボタンがあり (下画像参照)、それらをクリックすることで、Facebookの友達のニュースフィードにその情報が共有されます。そして、自分のタイムラインの「最近のアクティビティ」にも表示されます。

ラグジュアリーファッション誌ELLEによるFacebookコマースFコマース事例2

この仕組みは、PinterestやInstagramなども取り入れていますが、アプリ開発が必要なことから、いいね!ボタンのように簡単には実装できません (いいね!ボタンからの拡散内容をOGPで制御することは比較的簡単ですが) 。しかし今後、Facebookとの連携を強化するためにこのようなアプリは増えてくるでしょう。

アプリの問題点として、ユーザーにアプリを導入してもらう必要がありハードルはありますが、ソーシャルメディア上でどれだけ拡散されるかは、友達のニュースフィードに共有される情報の見せ方に依存しているため、より共有される情報をカスタマイズができるOpen Graph アプリは極めて重要な手段となります。

 

 

3. ニュースフィードから直接商品プレビューが閲覧できる

このFacebookアプリの制作は 8thBridge によるものですが面白い機能が付けられています。YouTubeなどの動画のフィードにも見られるのですが、商品画像をクリックすると画像が大きくなり商品のプレビューが見れるようになります (YouTubeの例では、画像をクリックすると画像が大きくなり動画が始まります)。

先ず、上記2にあるアプリ内のアクションLove、Want、Ownをクリックすると、以下のフィードがアクションしたユーザーの友達のニュースフィードに共有されます。

ラグジュアリーファッション誌ELLEによるFacebookコマースFコマース事例3

そして、商品画像 (画像の左下に再生ボタンのようなアイコンが付いています) をクリックすると、以下のように商品画像が大きくなります。左右の矢印ボタンをクリックすることで他の商品をニュースフィード上で見ることもできます。

ラグジュアリーファッション誌ELLEによるFacebookコマースFコマース事例4

 

 

ELLE のシニアVPのインタビューでは、施策はまだテスト段階で大きな収益を見込んでいる訳ではないと答えており、実際に購買に結びつくかどうかの判断には時間がかかるとしています。しかし、これまでの多くのFコマースの事例の中でも ELLE の取り組みは格段に洗練されていると感じます。

 

ECサイトと違いソーシャルメディアの場合、当初ユーザーは購買の目的を持ってサイトに訪問・滞在するわけではないので、先ずは商品に興味を持ってもらうことから始めなければいけません。ELLE の取り組みは、先ずはユーザーに興味のありそうな商品へ触れる機会をたくさんつくり新しい発見を促すことを重視しています。実際に購買に至るかどうかはリンク先のECサイトにも依存するため、ユーザーのショッピング体験をすべてコントロールできるわけではないですが、ファッションメディアのFコマースへの取り組みとして質の高い事例なのではないでしょうか。

 

 

出典 :
Elle Tries Facebook Commerce, Launches Shoppable Trend Guide – Mashable
Elle Magazine Experiments with Curated Social Trend Catalogues – Social Commerce Today

 

 

本コラム記事は、以下の通り Venture Now に寄稿させていただきました。
ラグジュアリーファッション誌ELLEによるFacebookコマース事例