東南アジアのスマートフォン・モバイルコマース (EC) 環境について

これまで「競合ひしめく東南アジアのCtoCマーケットプレイス事業・フリマアプリ」、「マレーシアのモバイル事情を知るための12の事実」、「東南アジアと日米のモバイル・スマートフォン普及状況比較」 …

 

これまで「競合ひしめく東南アジアのCtoCマーケットプレイス事業・フリマアプリ」、「マレーシアのモバイル事情を知るための12の事実」、「東南アジアと日米のモバイル・スマートフォン普及状況比較」、「東南アジアEC市場拡大の鍵を握るスマートフォンユーザー」などで、東南アジアのスマートフォン・モバイルコマース (EC) 環境について考えてきたが、We Are Social の最新レポート (January 27, 2016) を参考にして、現状について新たに確認をしていきたい。

 

スマートフォン・PC・タブレット所有率

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上表は、インドネシア・タイ・マレーシア・シンガポールの東南アジア4カ国に比較対象として中国・米国・日本を加えた、スマートフォン、PC、タブレットの所有率 (成人人口を分母とした所有者の率) である。

スマートフォン所有率は、東南アジアではインドネシアを除いて比較的高い率となっている。米国・日本は思ったよりも低いが、人口の割りに高い率となっている中国は驚異的だ。インドネシアは、まだまだプリペイドのフィーチャーフォンが多いのか、または人口が多い分まだ浸透しきれないのか低い率となっている。

PC (ラップトップ・デスクトップ) の所有率は、シンガポールを除いた東南アジアの国々とそれ以外では多く差が出ている。日本はある程度の人口の国の中では最高位ではないだろうか。スマートフォンで事が足りているということもあるだろうが、シンガポールの除く東南アジアでのPC所有率は低く、PC購入は一般的にまだ経済的ハードルが高い。

 

デバイス別ウェブページビューシェア

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上表は、その上の表と同じ国々を対象として、モバイルフォン、PC (ラップトップ・デスクトップ)、タブレットからのウェブページビューのシェアを表している。

インドネシアを除く東南アジアと中国は似た傾向にあり、モバイルとPCのシェアにそこまで大きな差が無い。タイ・マレーシアでのPC所有率が比較的低かったことを考えると、PC所有者はPCをメインにウェブを閲覧していることになる。インドネシアはそもそもPCの所有率がきわめて低いため、どうしてもウェブ閲覧はモバイルが中心になり、この傾向は今後も変わらないだろう。

米国・日本でもPCからのウェブページビューのシェアが高い。スマートフォンであれば当然アプリに費やす時間を加味しなければならないので一概にPCが強いとは言えないが、ウェブ閲覧に関してはモバイルではなくPCをメインにしているようだ。「世界的なモバイルシフトを裏付けるデータ」の通り、米国では既にモバイルデバイスのアプリを通してインターネットにアクセスする時間がPCのそれを超えている。

 

デバイス別商品・サービス購入率

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最後に、上表は、モバイルデバイスとPC (ラップトップ・デスクトップ) で過去30日間に商品またはサービスを購入したユーザーの率を表している (アンケートベース)。

これらはモバイルアプリも含めた率かと考えるが、全体的にまだまだPCの方が強い。特にシンガポール・米国・日本は顕著になっている。

シンガポールを除く東南アジアのインドネシア・タイ・マレーシアと中国はそこまでPCとの差が大きくない。シンガポールはPCからの購入率は高いものの、モバイルからの購入率も低いわけではない。

中国は既にモバイルコマース大国として認知されているので別格としても、東南アジア各国 (インドネシアはまだ早いかもしれないが) でのモバイルコマースの潜在力が高いことを表しているのではないだろうか。

 

出典 : Digital in 2016 – We Are Social UK | January 27, 2016

 

競合ひしめく東南アジアのC2Cマーケットプレイス事業・フリマアプリ

東南アジアでも当然Eコマース (以下EC) の主戦場はモバイルである。マレーシアでもシンガポールでも、元々ウェブ主体のECのほとんどがモバイルアプリ (iOSよりもアンドロイドが主流) を展開し…

 

東南アジアでも当然Eコマース (以下EC) の主戦場はモバイルである。マレーシアでもシンガポールでも、元々ウェブ主体のECのほとんどがモバイルアプリ (iOSよりもアンドロイドが主流) を展開している。そして、現在、モバイル最適化が特徴的なC2C (またはCtoC) マーケットプレイスアプリ (所謂フリマアプリ) のプレイヤーが非常に注目されている。

 

top-shopping-mobile-app-malaysia【Google Play Store – Shopping ranking in Malaysia】

 

C2Cマーケットプレイスのプレイヤーは基本的にサービスのUXをモバイルアプリに最適化させている。Carousell、Shopee、Duriana、SnapSellらのように全カテゴリ対応するサービスの他にもファッションに特化しているReebonzやClosetStylesなどのサービスがある。

ウェブ時代からの強豪であるLelong.myやGumtree、eBayもモバイルアプリを出している。また、シンガポール最大のBtoCマーケットプレイスのQoo10もアプリを出しており、C2Cのように個人で登録して商品を売ることができる (出品はウェブからのみ)。

このように新旧のモバイルアプリ・ウェブ、そして、BtoCと見られるマーケットプレイスでも個人販売ができるなどサービスがひしめき合っているのが、マレーシア・シンガポールのC2Cマーケットプレイス事業の現状である。

 

今後、全カテゴリに対応しモバイルアプリに最適化されたサービスの中で1、2社は生き残るだろう。今のところCarousellとShopeeが優勢な状況で、モバイルに最適化し切れないウェブ主体のサービスは彼らに勝つことは出来ない。また、彼らと競争するために今から参入するのは遅い、というのも現地での意見だ。

このような現状で参加しているプレイヤーはどうすれば勝てるのか?一つはカテゴリ特化型 (Vertical market) で突き抜けること、サービスにストーリーがあり将来横展開が可能な分野であれば可能性が高いだろう。

しかし、シンガポール・マレーシアなど人口の少ない国では満足のする規模にまでスケールしないことが見えてくる。そこで、クロスボーダーの取引をサービス内に取り入れることが必要となる。

東南アジアで苦労する決済と物流のうち、決済は現地オンラインモールのように商品代引き (COD) 決済をメインにして現地固有の決済方法をある程度揃えればなんとかなるが物流、特に国際物流はさらなる工夫が必要だ。AlibabaがSingPostの第2位株主になるなど、東南アジア間に限らず中国なども含めたクロスボーダー取引の整備は進んでいるように見える。

CarousellやShopeeは、シンガポール・マレーシア以外にもインドネシア、タイ、ベトナム、フィリピン、台湾などにも進出しており、前述のAlibabaが運営するTaobaoも中国を中心に既にクロスボーダー取引を実施している。圧倒的なスケールが必要なモデルであるC2Cマーケットプレイス事業では、今後は各国内だけでの点の競争ではなく、多国間の面での競争になるだろう。

 

出典 : Top Malaysia e-commerce trends in year 2015 – eCommerceMILO | December 30, 2015

 

2018年までの東南アジアEC市場予測及び日本との比較

東南アジアのEC市場規模については、「東南アジアのEC市場規模はどこまで拡大するのか」にて当時の市場規模を各データソースを用いて予測していた。その後、AT Kearneyが2013年の東南アジア…

 

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東南アジアのEC市場規模については、「東南アジアのEC市場規模はどこまで拡大するのか」にて当時の市場規模を各データソースを用いて予測していた。

その後、AT Kearneyが2013年の東南アジアのEC市場規模を発表しており、そこでは、東南アジア6ヵ国 (インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナム) で70億USドル (上表参照) とあり、日本の約1/9ほどの規模になっている。

本記事では、このAT Kearneyのレポートとフロスト&サリバンから出された東南アジアEC市場規模の成長予測から、国別に2013年から2018年までの予想を算出した。

算出のための前提条件は以下の通り。

  • 対象国は、インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムの東南アジア6ヵ国と日本
  • EC市場規模の定義としては、物販に絞った狭義のEC市場規模とする
  • EC市場規模は、2013年の70億USドルから2018年の345億USドルまで年平均成長率 (CAGR) 37.6%で成長 [フロスト&サリバン]
  • 2018年にはインドネシアが上記東南アジア各国全体の40%以上のシェアを占める [フロスト&サリバン]
  • インドネシア以外のシェアについては、AT KearneyレポートのTheoretical potentialを参考 [AT Kearney]
  • 日本のEC市場規模はeMarketerレポート (excludes travel and event tickets) を参照、2019年以降は2017〜2018年のCAGRを用いて算出 [eMarketer]

 

2018年に全体の40%ほどを占めるインドネシアのEC市場の成長は特に著しく、次いで、タイの伸びが大きい。シンガポールは2013年で東南アジア最大の市場だが2018年にはかなり後退することになるだろう。

SEA Ecommerce Market Size 2[東南アジア6ヵ国 EC市場規模 成長予測 Billion US$]

 

以下は、上記東南アジア6ヵ国の合計と日本のEC市場規模を比較したグラフ。2020年時点で東南アジアは日本の約半分、2013年時点の市場規模まで成長すると考えられる。

SEA Ecommerce Market Size 3[東南アジア6ヵ国合計及び日本のEC市場規模予測 Billion US$]

 

SEA Ecommerce Market Size 4[東南アジア6ヵ国合計及び日本のEC市場規模予測表 Billion US$]

 

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出典 :
東南アジアのeコマース市場が2018年までに年平均成長率37.6%で成長 市場規模は345億米ドルに到達 – フロスト&サリバン ジャパン株式会社 | July 4, 2014
Lifting the Barriers to E-Commerce in ASEAN (PDF) – AT Kearney
Retail Sales Worldwide Will Top $22 Trillion This Year – eMarketer | December 23, 2014

 

東南アジアでECを始める前に知っておくべき10のこと

1. 東南アジアのオンラインユーザーは若い 東南アジア各国のオンラインユーザーの年齢を見ると、そのほとんどが34歳以下である。 シンガポールを除くと、各国で60%以上が34歳以下であり、ベトナム…

 

1. 東南アジアのオンラインユーザーは若い
10 things you should know before starting your eCommerce venture in Southeast Asia 1

東南アジア各国のオンラインユーザーの年齢を見ると、そのほとんどが34歳以下である。シンガポールを除くと、各国で60%以上が34歳以下であり、ベトナム、タイ、フィリピン、インドネシアについては70%以上となっている。

 

2. 男性ユーザーは3C、女性ユーザーはファッション関連商品をオンラインで購入している

シンガポール以外では、男性は3C (参照元ではComputer、Communication、Consumer Electronicを意味しているが、場合によっては、CameraやCell Phoneを入れる場合もある) 商品、女性はファッション、美容、キッチン用品などをオンラインでよく購入している。

 

3. ユーザーは未だモバイルデバイスよりもデスクトップからECを利用している
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東南アジアでの携帯電話普及率は高いものの、データ通信を定常的に利用しているユーザーの率は必ずしも高くはない。例えば、データ通信はFacebookやWhatsAppに絞ったプランなどもあり、現状モバイルデバイスからのEC利用について楽観視することはできない。

しかし、「楽天シンガポールにおけるモバイルコマースの重要性」にもある通り、シンガポールではモバイルコマースが浸透しつつあり、この流れは他の国々でも必然として受け入れられるのではないかと考える。

マレーシアのモバイル環境については「マレーシアのモバイル事情を知るための12の事実」を参照。

 

4. ソーシャルメディアではアクティブだが、ECでのコンバージョン率は低い
10 things you should know before starting your eCommerce venture in Southeast Asia 3

携帯電話の普及率と同様にソーシャルメディアについても、利用者の数は多いものの、だからといってすぐに購買に繋がるわけではない。

東南アジアでもFacebookやInstagramなどのソーシャルメディアの利用率は高く非常にアクティブだが、ECで活用する場合、リーチ数は多くなるものの、購買に至るコンバージョン率は 0.008% と極めて低い。

 

5. シンガポールとマレーシアのユーザー・市場はある程度成熟している

シンガポールとマレーシアは市場は小さいものの東南アジアの中では比較的成熟した市場である。市場規模やユーザーがECに慣れている点で台湾の環境とよく似ている。

個人的な感想としては、マレーシアはまだ成長の余地は多く、そこまでECに慣れているユーザーが多いとは感じないため、EC市場が成熟しているという印象は無い。

 

6. ECでの決済は商品代金引換支払いが最も好まれている
10 things you should know before starting your eCommerce venture in Southeast Asia 4

東南アジアでは、商品代引き (COD) での決済が主でクレジットカード決済は全体の2割ほど。他にも友人のクレジットカードを借りたり、テキストメッセージを利用した振り込み (おそらく、振り込み先の銀行口座を確認してATMより振り込み) など、日本にはあまり無い方法もよくある。

ロケットインターネット投資で急成長のZaloraとLazada」にある通り、東南アジアを代表するEC事業者LazadaやZaloraでも決済は代引きが当たり前となっている。

 

7. 単体のECサイトよりもECモールでの商品購入が主流
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ユーザーのECの利用はモールが主であり、多くのECモールは多国間で展開している。主要なプレイヤーは3つに分けられ、1つはロケットインターネットがバックアップしているLazadaとZalora、2つめはAmazonとeBayのアメリカ勢、3つめはTaobaoとAlibabaの中国勢 (アリババグループ) だ。

 

8. 物流は東南アジア最大の課題

シンガポールとマレーシア (地方は微妙だが) はまだ良いが、他の東南アジア各国のECで最大の課題は物流だ。

インドネシアやフィリピンなど島で形成されている国もあり、配送コストが高いとユーザーは購入に二の足を踏むだろうし、事業者の機会損失に繋がってしまう。

 

9. 販売促進の施策としては、配送料無料が最も好まれている
10 things you should know before starting your eCommerce venture in Southeast Asia 6

配送料無料、値引き、景品、バウチャーなどの販売促進の施策の中で、最も購買に結びつく理由となるのは配送料無料。

ショッピングカートでのチェックアウトの際に値引きを提案する方法も離脱を防ぐ方法として効果がある。

 

10. 東南アジアで不足しているタレントはソフトウェアエンジニア
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これは世界共通と感じるが、東南アジアでもソフトウェアエンジニアは不足している。

 

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出典 : 10 things you should know before starting your eCommerce venture in Southeast Asia – eCommerceMILO | July 8, 2015

 

2014年アジアのインターネット広告市場は30%上昇

eMarketerによると、2014年のアジア・パシフィック地域におけるインターネット広告市場規模は30.3%上昇し、465億9,000万USドルになると見込まれている。2012年から同地域はイ…

 

eMarketerによると、2014年のアジア・パシフィック地域におけるインターネット広告市場規模は30.3%上昇し、465億9,000万USドルになると見込まれている。

2012年から同地域はインターネット広告市場規模において、北米地域に次いで2番目に大きいシェアを誇っている。この傾向は2016年まで続き、2017年にはアジア・パシフィック地域はシェア36.9%と北米地域の35.7%を上回ると予想されている。

2014年世界B2C EC市場規模は150兆円 アジアが最大規模」にて、2014年にはB2C EC市場規模でアジア・パシフィック地域が北米地域を上回るだろうと予想しているが、その3年後にインターネット広告市場でも同じことが起きるようだ。

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アジア・パシフィック地域に絞って見ていくと、2014年には中国のシェアが50.9%と同地域の市場規模の半分以上を占め、次いで、日本 (19.5%) 、オーストラリア (9.7%) と続いている。

同地域においてインターネット広告市場規模が最も伸びているのがインドネシアで、2014年で98.0%と急成長しており、この傾向は以降も続いていくと予想されている。

インドネシアではオフライン広告への支出がまだまだ盛んだが、インターネットユーザーやスマートフォン利用者の数が急成長しているだけに、インターネットへの広告費シフトが起きると考えられている。

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出典 : APAC Digital Ad Spending to Jump Over 30% This Year – eMarketer | December 11, 2014